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締付けによる軸力推移試験 

―ハードロックナットとダブルナット―

ハードロックナット(HLN)は凸ナットで軸力を管理し、凹ナットは凸ナットをロックするのが主な機能で、凹ナットの締付けにより軸力自体は大きな変化はありません。
ただし、一般のダブルナットの締付けは施工方法により軸力が大きく変化し管理が非常に困難です。今回、両ナットでの締付けでどのように軸力が変化するのか試験を行いましたので掲載します。
なお、ダブルナットの場合、緩み止め効果はロッキング状態により大きな差が生じますので十分な注意が必要です。ダブルナットのゆるみ止め効果については、弊社運営の「ねじ締結技術ナビ」の『ねじ締結体のトラブル原因と対策―ダブルナット編―』に掲載されていますので、あわせてご覧ください。

試験

試験条件

  • 一般ナット:M12×1.75、強度区分8、リン酸マンガン処理
  • ハードロックナット:M12×1.75、強度区分8T、リン酸マンガン処理
  • ボルト:M12×1.75、強度区分8(S45C製)、黒染め処理
  • 測定機:Vibrationmaster社製 VM J900
  • 目標軸力:ボルト降伏点のおおよそ70%(8 kN)
  • 潤滑油条件:グライトモ 165 SPRAYを塗布(ただし、ダブルナットの下ナット上面と上ナット下面には潤滑剤を塗っておりません)

 

■ハードロックナットの場合

ハードロックナットの締付け試験の結果を図1に示します。横軸は締め付けトルク、縦軸はボルトにかかる軸力
<締付け方法>
凸ナットでボルト降伏点の70%(目標軸力37.8 kN)で締付け、次に凹ナットを凸ナットに片密着するまで締付ける。
HLNハードロックナットの取り付け手順はこちらから
<結果>
この図1の通り、弊社カタログでの凹ナット締付け推奨トルクから片密着に至るあたりまでは凹ナットを締付けても軸力がほとんど変わっていないことが分かります。

施工法の締付け軸力推移

図1 ハードロックナット 締付け軸力推移

 

■ダブルナットの場合

3つの締付け方法(上ナット正転法、下ナット逆転法、施工法)で試験しました。締付け方法については弊社ねじ締結技術ナビ『ダブルナット(ゆるみ止め部品)』をご覧ください。

1.上ナット正転法

<締付け方法>
下ナットを目標軸力の約半分(20 kN)でまず締付け、下ナットを固定しながら上ナットを目標軸力(37.8 kN)まで締付ける。
<結果>
結果を図2に示します。青線が下ナットの締付けで橙線が上ナットの締付けを表しています。
図からわかる通り、まず下ナットの締付け(青線)においては締付けにしたがってトルクと軸力が上昇していきます(20 kNまで到達するのに約23 N·m要したことが分かります)。この地点に到達後、トルクレンチをいったん外すため、軸力は保ったままトルクのみが急激に落ちます。下ナットを固定した状態での上ナットの締付け(橙線)については、下ナットと同じ締付けトルクまでは軸力が変化しませんが、それ以上では軸力が上昇していきます。下ナットをスパナで固定して上ナットを正転させていくと、ある地点からスパナのかかりが重くなり、急激にロックが効き始めるため、軸力がそれほど上昇せずにトルクだけが上昇していきます(図1橙線の70 N·mを超えたあたりの赤丸点線で囲った部分)。
この急激なトルクの上昇は非線形な挙動であり、トルク値がどのぐらいになるのか、また各々のケースによって異なった値になるため、予測することができません。

上ナット正転法の締付け軸力推移

図2.ダブルナット 上ナット正転法 締付け軸力推移

2.下ナット逆転法

<締付け方法>
下ナットを目標軸力の37.8 kNで締付け、上ナットを下ナットが要したのと同じトルクで締付け、上ナットを固定して下ナットを当初の締付け角度の半分まで戻す。
<結果>
締付け線図を図3に示します。下ナットを締付けた後、上ナットを締付けるところまでの、軸力-トルク曲線の挙動は後述の施工法と同じですが、上ナットをスパナで固定して下ナットを戻し回転させるときに軸力が必ず下がります(図3赤線の部分で、この試験品では、約42 kNから32 kNまで減少しています)。
この軸力の低下量もその時々により挙動が異なってくるため、この方式も目標軸力に対するトルク値の予測ができません。

下ナット逆転法の締付け軸力推移

図3.ダブルナット 下ナット逆転法 締付け軸力推移

3.施工法

<締付け方法>
下ナットを目標軸力の37.8 kNで締め、下ナットの固定を行わずに上ナットを下ナットと同じトルクで締付ける(弊社では施工法と呼んでいます)。
<結果>
上ナットを締付け時に(橙色の線)、下ナットと同じトルクで締付けるまでは、大きな軸力の上昇は見られません(図4)。
ただし、軸力の上昇もなく軸力管理が簡単そうで一見よさそうな方法に見えますが、施工法ではゆるみ止め効果はありません。(ロッキング効果はありません)

図4.ダブルナット 施工法の締付け軸力推移

まとめ

ハードロックナットの締付けによるトルクと軸力の変化をグラフから見ると、推奨締付けトルクの範囲内では大きな軸力の変化はありません。
このように、ハードロックナットは軸力を管理する上では凸ナットのトルク管理をすれば、凹ナットは推奨締付けトルクの範囲内で締め付けるだけなので、軸力管理が可能です。
つまり、施工は簡単でロックナット(凹)による軸力への影響をほとんど与えず、かつクサビによるボルトと一体化させることで緩み止め効果を強力に発揮します。
一方、ダブルナットはグラフを見ると施工法以外は軸力が大きく変化し軸力管理を行うことがほぼ不可能と言えます。また、実際の施工(正転法・逆転法も含む)では理想のロッキングが非常に困難であるため、強力なゆるみ止め効果は期待できません。
特にサイズがM16以上になれば物理的に一人での施工は困難ですから施工には十分な注意が必要です。

*ゆるみ止めの評価試験は、ねじ締結技術ナビ『ねじ締結体のトラブル原因と対策―ダブルナット編―』に掲載されています。
*ハードロックナットのゆるみ止めについては『ハードロックはなぜゆるまないのか』をご覧ください。
*ダブルナットについては、以下の動画もあわせてご覧ください。
『ロッキングされたダブルナット ねじ山の嵌め合い状態』https://youtu.be/zxSNNE3MoiI
『ダブルナット及びハードロックナット ユンカー試験結果』https://youtu.be/VIZHkw1uPwQ
『ダブルナットにおける羽交い絞めによるロッキング操作が可能なサイズについて』https://youtu.be/5lftTLYW_OA