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なぜ ねじのゆるみがボルトの疲労破壊につながるのか

「なぜ ねじはゆるむのか」でも記載していますが、ねじ締結体の初期軸力の低下(ゆるみ)は、ボルトの破壊につながる可能性が高いといえます。
ボルトの破壊の原因は多種多様ですが、その中でも90%以上が疲労破壊と言われています。
初期軸力の低下(ねじのゆるみ)がボルトの疲労破壊につながる過程は、下記の「ねじの疲労と疲労試験について」と「ねじ締結体に作用する外力及び内力の関係について」をご覧下さい。

 

ねじの疲労と疲労試験について

材料の疲労に対する強さを調べる試験のことを疲労試験と言い、ねじの疲労については、ねじ部品の疲労試験として、JISで定義されています(*1)。このねじの疲労試験では、種々の応力振幅のもとでボルトが破壊するまで繰り返し回数実施します。この実験結果について、繰り返し回数(Number)の対数を横軸、応力振幅(Stress)を縦軸にとったS-N線図(曲線)と呼ばれるグラフを作成します。応力振幅がある値以下になると、いくら繰り返しても破壊を生じず、曲線が水平になるところがあります。この曲線が水平となる限界の応力を疲れ強さ(疲労限度)と呼びます。

*1ねじ部品の疲労試験方法ついてはJISB1081(ねじ部品―引張疲労試験―試験方法及び結果の評価)に試験に用いる治具の形状寸法及びデータのまとめ方に至るまできめ細かく規定されています。
JIS B1081の規格の概要はこちらから

*ねじ締結技術ナビ ねじの疲労試験(動画)をご覧ください。技術動画 | ねじ締結技術ナビ (hardlock.co.jp)

 

ねじ締結体に作用する外力及び内力の関係について

*詳細は、ねじ締結技術ナビをご覧ください。

・内力係数φを用いたボルトの設計法 https://navi.hardlock.co.jp/data

・ねじ締結体の設計 https://navi.hardlock.co.jp/column/ねじ締結体の設計/

ねじ締結体(貫通孔のある、少なくとも2つの被締結部材を重ね合わせて、一方の孔からボルトを貫通させて他方の孔からでたボルトの先端をナットで螺合したもの)に軸方向の外力が作用するとボルト軸部に引張力(内力)が誘起されてボルト軸力が増加しますが、この関係を示した図が「締付け線図」といわれるものです。

*締付け線図とは
ボルトの引張力と伸びの関係のグラフ(a)と被締結部材の圧縮力と縮みの関係のグラフ(b)
を併せたグラフが締付け線図(c)となります。縦軸はボルト軸力と被締結部材にかかる圧縮力の変位、横軸はボルトの伸びと被締結体の縮みの変位を表します。


ボルト軸方向に、被締結体を離すように外力が加わるとボルト及び被締結体に作用する力は、外力の一部がボルト軸力の増加分として作用し(内力)、残りの外力は被締結体の圧縮力の減少分として作用します。

従って、ねじ締結体に外力が繰り返し加わった時、ボルト軸力の増加分(内力)がボルトの疲労限度以下であれば、ボルトが破壊しないと言われており、一般的に適切な設計と考えられています。
逆に、この内力がボルトの疲労限度を超えることがあると、ボルトが疲労破壊する可能性が高いと言えます。

*ボルトの締付け線図

1)安全なねじ締結体の状態
ねじはゆるまず初期軸力が維持(外力によって被締結体が遊離しない場合)
内力<ボルトの疲労限度
⇒ボルトは疲労破壊しない


2)危険なねじ締結体の状態
ねじがゆるんで初期軸力が低下する/初期軸力自体が低い
内力>ボルトの疲労限度
⇒ボルトは疲労破壊する


ねじ締結体に繰り返し外力が加わる→ねじがゆるんで初期軸力が低下→被締結体の圧縮力が喪失→被締結体が遊離→ボルトの負荷荷重(内力)が増大→内力が疲労限度を超える→ボルトが折損する

*被締結体が接合面で遊離している場合は、ボルト軸力は外力と同じになりますが、遊離していない場合は外力がそのままボルトに加算されるものではなく、その一部分のみがボルトに付加されます。これは設計上非常に有利なものです。
(その一部分のみの内力を算出する係数が内力係数と言われ、内力=外力×内力係数です。)

 

弊社独自の段階的に軸力が低下したことを想定した疲労試験を実施

(初期軸力の低下による内力の増大を想定)

試験ボルト:M16×2.0 強度区分5.8の溶融亜鉛めっき付ボルト

設定条件:初期締付け力(初期軸力)を降伏応力の70%(280MPa)に設定
応力振幅を10、20、30、40、50、60MPaと段階的に上げて実験を行う
➡想定軸力低下 ▲7% ▲14% ▲21%  ▲29% ▲36% ▲43%

実験結果:応力振幅 10MPaつまり初期軸力が7%低下であれば、ボルトは疲労破壊しないが、初期軸力が14%以上低下するとボルトの疲労破壊が発生します。


 

応力振幅(内力)が大きければ大きいほど、ボルトは早い段階で疲労破壊することがわかります。これは繰り返される外力が同じでも

1.ねじがゆるんで初期軸力が低下していく場合

2.ねじはゆるまなくても最初から初期軸力が低かった場合の2通りが想定されます。
同じ締付けトルクで締付けても、各接触部の表面粗さの違いや締付け工具の精度で、一般的に初期軸力は1.4~3倍のバラつきが出ると言われております。

結論:ボルトの折損事故を防ぐには 適正な初期軸力を与え、その軸力をいかに低下させないかが重要となりますが、現実的には適正な初期軸力を与えることは難しいため、初期軸力の低下を防ぐ対策が最も重要です。